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2007年1月21日 (日)

利根川で住民参加は実現するか

昨年「グローバルネット」」((財)地球・人間環境フォーラム発行)で始まった連載「川 開発 ひと 日本の経験 アジアの経験」での掲載記事を編集部のご了解をもらって転載します。

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「グローバルネット」200611月号より全文転載

「川、開発、ひと――日本の経験、アジアの経験」 第一回

今、アジアは河川開発ラッシュのただ中にいる。ダム開発は先進国による政府開発援助(ODA)や国際金融機関が介在する企業進出などによって進められてきたが、環境社会面での問題が絶えない。新連載「川、開発、ひと」では日本とアジアの河川開発の事例を取り上げ、日本が学んできた堤体経験を活かし、アジアにおける真の意味で望ましい川と人の関係を探る。

利根川で住民参加は実現するか

1997年の河川法改正で河川事業を決める手続に「住民意見の反映」が盛り込こまれた。来年で改正10年を迎えるが、住民参加の手法が今日までに確立したかと言えば、そうではない。日本最大の流域面積を持つ利根川では、現在、住民側から「住民意見の反映」の枠組みを提案されているが、国土交通省はそれにどう応えるのだろうか。

利根川流域市民委員会の発足

2006922日、「利根川流域市民委員会(以下、市民委員会)」は、国交省河川局長と関東地方整備局長あてに、「地域住民参加の流域委員会の設置について」と題する要望を行った。利根川流域市民委員会とは、今年4月に天然アユの復活を目標に活動する「利根川・江戸川流域ネットワーク」(代表:佐野郷美)の呼びかけで、下流は三番瀬の環境保全から上流は八ツ場ダム反対運動まで流域32団体(10月現在)が参加した住民組織だ。

河川事業を決める手続きは、1997年の法改正以来、河川整備基本方針(以下、基本方針)と河川整備計画(以下、整備計画)の二段階に分けられた。基本方針では治水計画の基本となる洪水流量の想定などが審議会の意見を聴いた上で定められ、整備計画では必要とあらば、「関係住民の意見の反映をさせるために必要な措置を講じなければならない」とされている。以前は国交省が審議会だけに意見を聴いて河川事業を行ったことを思えば、大きな変化ではある。市民委員会は、今年1月に利根川水系の基本方針が策定されたのを受け、この機を逃すまいと、河川整備計画への住民意見の反映を共通目的に生まれたのである。

整備計画の関与の意味

実は住民による整備計画へ関与は、基本方針にも関与するチャンスでもある。その根拠は過去の国会答弁の中にある。975月の衆議院での河川法改正審議の際、一人の自民党衆議院議員が、「住民の意見聴取手続を義務づけたのは河川整備計画のみ」だが、「基本方針にも地域の意向が十分反映されていかなければならない」のではないかと批判的に質問をしたときのことだ。当時の河川局長が「基本方針で定めた中ではこの整備計画がどうしてもできないということになれば、またこの基本方針のあり方についても再度検討をする、そういう仕組みを考えておるわけでございまして、この河川整備基本方針に住民意見の反映の手続がないということをもって住民意見の反映がされていないという御批判は当たらない」と答えた。

市民委員会は、今年719日に国交省から利根川の基本方針について説明を受けた席で、布村明彦河川計画課長(当時)にこの答弁が現在も踏襲されていることをあえて確認している。住民意見を反映して策定する整備計画の段階で、問題があれば基本方針まで遡って再検討するという政策は、流域住民にとっては意義深いからだ。

環境や地域への影響

利根川の基本方針を根拠に、整備計画に盛り込まれるであろう大規模事業は多数ある。たとえば旧河川法の下で計画された「幻の利根川放水路」と呼ばれた事業は、予定地への人口流入で現実性を失って忽然と消え、代わりに下流の印旛沼(千葉県)を洪水調整地として活用する新たな計画が浮上した。しかし、それは現在の印旛沼が持つ排水能力の10倍を要する計画であり、環境や地域への影響が計り知れない大規模掘削事業が行われるのではないかと早くも懸念の声があがっている。

その他にも、八ッ場ダム、思川開発事業、湯西川ダム、渡良瀬遊水池の大規模掘削、稲戸井調節池の大規模掘削、烏川の河道内遊水池、利根川中流部右岸の堤防強化対策、霞ヶ浦導水事業、那珂川と霞ヶ浦を結ぶ導水路、霞ヶ浦と利根川を結ぶ導水路など必要性が過大に見積もられていると指摘される事業は少なくない。これらを見直すとなれば基本方針まで遡らねばならないものもある。

「淀川方式」という住民参加手法

ところで、市民委員会が設置を提案した「地域住民参加の流域委員会」は「淀川水系流域委員会」をモデルとしたものだ。

淀川水系流域委員会は国交省近畿地方整備局の諮問機関でありながら、2003年1月、計画中だった5ダムを原則建設しないと提言したことで関係者をアッと驚かせた。公共事業に批判的な有識者を含む準備会議を経て20012月に発足し、1)学識経験者に地域特性に詳しい住民を含める、2)一般公募を募る、3)会議、会議資料、議事録等を原則公開する、4)傍聴者も発言できる、5)委員が分担執筆で提言・意見のとりまとめを行う、6)事務局を中立の民間社会へ委託する、7)地域部会・テーマ別部会・作業部会に分け丁寧に審議するなど、これまでの諮問機関とは一線を画した運営を行った。

通常、行政の諮問機関は行政の意向ばかりを反映して住民との対立が深まるが、この場合は対立したのは国交省だった。20058月、近畿地整が「2つのダムは事実上中止するが3つのダムは事業を継続する」と頭ごなしに発表したことで対立は明らかになった。この10月には近畿地整局長が流域委員会の休止を発表し、わずか3日後に国交大臣が、いや存続する、と発言し、迷走も始めている。

これまでに国交省は淀川方式を異端視し、それ以外の住民参加手法を模索してきた。200310月には肱川水系(愛媛県)で学識経験者と首長だけで占める流域委員会を作り、今年5月には吉野川水系(徳島県)で学識経験者、流域住民、流域首長の三者に分けて意見を聴く方式を始めた。どちらも当然、不評の声が高い。

こうした中、利根川の整備計画を担当する関東地整局では、市民委員会の要望に対しては、現在もなお「今後どうなるかはお話できる段階ではない」とし、水面下で住民意見の反映方法を検討中だ。改正10年を前に、そろそろ住民参加の手法を前向きに考えるときではないか。

図:利根川流域図

写真キャプション:922日国交省記者クラブにて「国交省に僕らだけと話し合いをして欲しいと言っているのではありません。流域住民の意見を吸い上げるプロセスを一緒に作っていきたい」と、利根川流域市民委員会の3人の共同代表(左から嶋津暉之氏、吉田正人氏、そして佐野郷美氏代理の高橋盛男氏)

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まさのあつこ

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