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2007年2月25日 (日)

余った農業用水の再配分で八ツ場ダムは要らなくなる

毎度おなじみ?「グローバルネット」」((財)地球・人間環境フォーラム発行)編集部のご了解をもらって連載3回目(20071月発行) 一ヶ月遅れの転載です。表や写真もあるのですが、作業時間が取れず載せることができていません。少々お待ちを!コメントやトラックバックしてくださった皆様ありがとうございます!

川、開発、ひと 日本の経験 アジアの経験 ③

余った農業用水の再配分で八ツ場ダムは要らなくなる

誰でも一度や二度は「無駄遣いはダメ」と言われた経験がある。自治体の場合はもう少し高級な言葉で、地方財政法4条1項により「地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない」と求められる。

国土交通省の八ツ場ダム(群馬県)は、無駄であると裁判になった事業だ。利根川の支流・吾妻川で1949年に調査が着手され、58年になる。水没予定地の反対や強酸性の水質問題で長引いた。代替地の分譲価格が高すぎるなどいまだに問題をはらむ。「無駄」という言葉は地元住民には残酷に響くが、否めない事実だ。

下表は利根川・荒川(茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京)で保有される水利権(水を使える権利)と2002年における最大取水量を示す。見ての通り35%相当の計42t/秒の余剰水を抱える。その大半が農業用水だ。非灌漑期にはさらに余る。八ツ場ダムで開発される水利権は灌漑期で10t/秒なので、作れば余剰が40%に増えるだけだ。

この馬鹿げたダムを止められない理屈の一つには、1985年に作成した利根川・荒川の水源開発基本計画(フルプラン)がある。需要予測を264t/秒とはじき出し、2000年までに170t/秒を確保する計画だった。2002年の実績でさえ78 t/秒。予測のたった3割だ。計画は破綻したまま、更新さえされていない。それでも事業は進んでいる。

利根川・荒川の水利権と実績(2002年) 単位 t/

                            水利権    最大取    水量余剰

水道                      42           38           4

工業用水               19           15           4

農業用水               59           25           34

合計                      120         78           42

国土交通省関東地方整備局から入手した

最新の「水利権」と「最大取水量の合計」から余剰を計算

公金支出を監査しない監査委員

国は計画を中止するどころか、2003年には事業費を4600億円へと倍増させ、完成予定を2010年に延ばした。受益地である1都5県の負担金は2679億円に上る。この事業への公金支出は不当ではないかと、「八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会」がオンブズマンらを巻き込んで結成され、20049月、4千人を超える一斉住民監査請求が1都5県で起きた。2ヵ月後までに全都県で請求は却下されたが、その背景は驚くべきものだった。

例えば、埼玉は「公金支出の原因行為について重大かつ明白な違法性を提示していない」と理屈をつけたが、住民が監査委員会の議事録を請求すると、監査委員は何も調査せず「却下ということになるのか」と県職員に質問し、職員が「自治法の定める要件を満たしていない」と答えただけだったことが分かった。監査制度は機能しなかった。請求人たちは淡々と、しかし速やかに、首長らを被告に各都県で住民訴訟を開始した。2年目にしていまだ続行中である。

地下水放棄の愚行

各都県が持つ水利権に視点を落とすと、問題はさらに見える。表の数値には各都県の地下水や二級河川から引く水を含んでいない。フルプランとは独自水源を反映せずにつくられた非現実的な数値だったのだ。それどころか河川・水道行政はダムに参画すると、安価でおいしい地下水を放棄しなければならない仕組みを持つ。この愚かさに気づいた議会は当然のように意見書を可決していった。

2004年には、東京都で小金井、東久留米、小平の3市議会が八ッ場ダム建設計画の中止を求める意見書を、また小金井、小平、多摩、国立、西東京、日野、昭島、国分寺、武蔵野の9市議会では地下水を安定的に飲み続けることを求める意見書を可決させた。これら多摩地域では約3割を地下水に依存しており、2006年度の東京都予算編成時には市長会からも地下水を使い続けるための要望が出された。しかし都は政策を転換していない。

農業用水が転用できないからダム

一方、放棄すべきでされていないのが農業用水だ。最大時でも権利の半分も使っていない。たとえば都内の農家は灌漑期に22t/秒の水利権を持っている。これは1968年に土地改良区などで調査されたデータで、現在の農地は当時の61の面積しかない。

埼玉では160t/秒の農業用水のうち、県が情報を出し渋る中で明らかにした「主要な農業用水の年間取水量実績」から灌漑期分を推定すると約80t/秒しか使っていない。03年までに国と県で10t/秒に満たない量を水道に転用したが、非灌漑期は水を使わないため転用の対象がないと、八ツ場ダムに求める水利権は非灌漑期の方が多い。非灌漑期は水道水の使用も減る事実はこの理屈からはまったく抜けている。

説明責任も果たしていない

こうした机上のつじつま合わせと共に取材で驚いたことがある。水利権と使用実績が納税者に説明できるよう情報を整理・公表している都県は一つもないのだ。千葉県は、県内外の水利権と実績が書かれたウェブサイトを明示したが、それらを合計しても実績(204t/秒)が水利権(45t/秒)の4倍以上多い。数字が合わない、と再度尋ねると、県管理の川から取る数値など(129t/秒)が含まれていないと言う。地下水はそのデータにすら含まれていない。国はともかく、県でさえ地下水を反映した水行政を展開していない。

群馬は、実績は答えるが水利権は隠そうとする。把握していないのかと聞くと、管理者がバラバラで「そういうものをひっくるめないと数値が出ない」と言う。しかし全体を把握できないまま八ツ場ダムに参画したのかと突っ込めば「公表はしていない。整理し終わっていない」とかわす。整理し終わっていないのに八ツ場ダムへの参画を決めたのかと、さらに問えば、どこの水道供給事業で何tと個々の水利権を羅列し始めた。

栃木、茨城を含め、訴訟で問われた柱の一つである「水余り」に対する説明責任を果たすデータがどの都県でも2年経ってなお整理されていない。整理・公表すればダムの不要性が明らかになってしまうからだろうと思わざるを得ない。

1994年に米国開拓局の元総裁ダニエル・ビアードが「ダム建設の時代は終わった」と表明した当時、日本ではさほど注目を浴びなかった論旨がある。それは、「農業用水は受益の多くを受けながら、コストは一般納税者に押し付けた。今後、水の配分を適正に行えば新しいダムは要らない」という論旨だ。日本で聖域であり続けた農業用水にも同じことが言える。転用や再配分を進め、地下水資源を水行政に反映していれば、八ツ場ダムは不要だ。司法や議会のチェックをすり抜けようとしてもこの事業に未来はない。

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