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2007年5月18日 (金)

河川事業に戦略的環境アセスメントはどういかされるのか?

「グローバルネット」 ((財)地球・人間環境フォーラム発行)の了解をもらって連載「川、開発、ひと 日本の経験 アジアの経験」6回目(20074月発行)の転載します。 

河川事業に戦略的環境アセスメントはどういかされるのか?

327日、環境省の諮問機関「戦略的環境アセスメント(SEA)総合研究会」が「戦略的環境アセスメント導入ガイドライン」の最終報告書を取りまとめた。1997年に成立した環境影響評価法よりも早期の段階で評価を求めるもので、2007年度からこれを共通ガイドラインとして各省で独自のSEA制度検討・導入が進む。

ところが研究会終盤で、今後に禍根を残す展開があった。SEA導入に電力会社が抵抗し、与党経済産業部会の圧力に環境省が屈した。研究会では12人中11人の委員が反対したにも関わらず、総合環境政策局長が「意見がまとまらない」という理由で評価対象から発電所を外した。原子力発電所や水力発電所における事故隠しや情報改ざんが次々と発覚するさなか、時代の要請とは真逆の結論だ。

一方、国土交通省は322日にすでに「公共事業の構想段階における計画策定プロセス研究会」を立ち上げ、SEA制度運用の検討を開始した。ここでは河川事業に絞り、現段階で見えている課題を整理しておく。

形骸化した手続は動き出すか?

河川事業では200212月にすでに「河川事業の計画段階における環境影響の分析方法の考え方」が、国交省全体では2003年に「国土交通省所管の公共事業の構想段階における住民参加手続ガイドライン」が策定されていたが、強制力がなく、ダムの反対運動などが起きている地域での運用例がなかった。

1997年改正河川法により、河川整備計画を策定する際は「関係住民の意見を反映」させる措置が法定要件となったが、これですら経過措置に甘んじ、計画策定済みの水系は一級河川ですら109水系のうち28水系にとどまっている(右図)。その他の水系では環境保全も住民意見の反映も全く実現されていない。

そのため「意見反映」の手法も確立せず、各地からは批判が相次いでいる。山鳥坂(ルビ:やまとさか)ダム計画を巡る反対運動が行われていた愛媛県の肱川では、200310月に学識経験者7名と流域7市町長だけを参加させた流域委員会を作り、5ヶ月足らずで4回開催してダム推進の結論を出した。その間、2004年1月に日本弁護士連合会が国交大臣と愛媛県知事に「肱川流域委員会の委員の追加と十分な審議を求める意見書」を提出し、「これを放置すれば、その影響は単に一地方に止まらず全国に波及し、新しい潮流を差し止め、逆行させる」と警告したほどだった。一方で、ダムは原則建設しないとした淀川流域委員会は、国交省が休止を決定した(本誌192号参照)。

SEA制度の肝は早期段階で住民に環境影響などの情報を公開し、参加を促すことだが、この二つの例を見ると国交省のSEA制度への姿勢もまたその延長線上にあると考えられる。

現状と制度論の溝は埋まるか?

目下、国交省は利根川と吉野川で、聴き置くだけの河川整備計画策定プロセスにつき猛批判を受けている。

利根川を巡っては、淀川方式での流域委員会を開くよう求めていた任意団体「利根川流域市民委員会」が(本誌192号参照)、その後も公開質問書を繰り返し、住民意見の反映方法を提案している。①有識者会議への住民の参加や意見交換、②公聴会での双方向での討議、③住民と国交省との議論の場の設定などの提案だが、国交省は一方通行の公聴会開催や意見募集のみにとどまっている。しかも、公述人の人数や住所地に制限を設けた上、公述枠に自治体首長と前首長に割り当て、「タウンミーティングばりのやらせを思わせる」と住民の気持ちを逆なでした。

吉野川では、第十堰の可動化に9割が反対した2000年の住民投票以来、7年が経つがその扱いは未だに「白紙」であり「中止」ではない。国交省は整備計画策定にあたり、そのプロセスを第十堰の対策とそれ以外に分け、前者は国交省が必要な基礎調査を行って「可動堰以外のあらゆる選択肢についての検討・評価をする」とし、後者は学識経験者、関係自治体、住民と3者に分けて意見を聴くとした。住民の間ではもとより「ほとぼりが冷めたら復活するのではないか」との警戒があり、策定プロセスを分けたのはその布石ではないかと見られている。このやり方に対しては徳島市を中心とした下流住民の不満が噴出。住民の意見を聴く会の運営を国交省に委託されたNPO20068月以来、2度にわたって、国交省四国地方整備局に説明責任を果たすよう公開で意見書を出すほどに紛糾している。

国民の声を反映したSEA作りができるか?

 こうした批判を受けている状況にも関わらず、国交省は「公共事業の構想段階における計画策定プロセス研究会」で整備計画策定での措置と環境目的が河川法に盛り込まれたことでSEA制度に対応していることを落としどころに検討を始めている。同研究会では意見聴取の事例として吉野川と、治水目標を戦後最大流量に設定した多摩川の事例が、単に「最近の事例と初めの頃の事例」として無造作に紹介された。

これらが河川事業でのSEAのあり方であるとするなら国民からの猛反発は必至だ。SEA制度を検討する場でこそ、まず、直接国民の意見を聴取することからはじめるべきだろう。

 河川事業におけるSEAの限界を指摘する声もある。水源開発問題全国連絡会の遠藤保男共同代表は「治水の代替案として、住民が森林整備や水田の維持管理、都市での雨水浸透などが出しても、河川法の所管外として排除されかねない。その意味では縦割りを排して山、川、都市を一貫管理できるようにしなければ」と言う。

環境省では今後、SEA総合研究会や中央環境審議会などを通し、SEAのフォローアップを行うというが、住民の声を反映し、関係省庁の所管を環境を軸につなげることができるかは一つの試金石となる。夏には子どもたちが泳げるほどの川を幾筋も日本列島に残せるよう、制度改正を重ねていく必要がある。

写真

モニカ・ベーム教授(マールブルク大学/環境法・行政法)は「ドイツでは、環境保全に関しては近年導入されたSEAよりも、個別法に厳しい要件が盛り込まれており、その要件を満たすかどうかで事業の可否が決まる」と語った(329日、東京にて)。SEA制度と同時に個別法改正も日本では課題だ。

まさのあつこ

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コメント

河川事業に戦略的環境アセスメントはどういかされるのか?を読ませていただきました。私は中部地整管轄、庄内川水質問題の研究に携わっている者です。所属は「中部大学大学院応用生物学研究科後期課程、伊勢三河湾流域NW、庄内川交流会」63歳です。わが地は世界の名だたる自動車産業で潤っており、温室育ち、と私はよく表現します。お陰様で「庄内川流域委員会」は「市民が2人入った」状態で最後の段階に突入しています。20~30年を見据えて「整備計画」見届けることは無理な年齢ですが、「孫の時代にも…楽しく、美しい、また厳しい水の惑星、地球号を残して上げたい」なンちゃって。「戦略的環境アセスメント(SEA)」という言葉が現実的になることを期待してやみません。

投稿: 石井宏和 | 2007年5月18日 (金) 03時46分

石井さま、庄内川情報をありがとうございます。同感です。この原稿の最後に書いた「夏には子どもたちが泳げるほどの川を幾筋も日本列島に残せるよう」というのが、私がこの原稿で最もいいたいことですので。「泳げる川」をキーワードに、これからの河川行政が考えていってくれればいいなと、思います。「泳げる」ほどに川との付き合いができれば「治水」という観点からも人は、人はより賢くなれるのではないかと思います

投稿: まさのあつこ | 2007年5月18日 (金) 16時33分

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