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2007年6月15日 (金)

穴あきダムは本当に環境にやさしいか?

先月のグローバルネット第7回(20075月号)の転載です。

すみません、まだ関係者に掲載誌を送っていません。お許しを。

穴あきダムは本当に環境にやさしいか?

1996年度以来、日本では105のダム事業が中止された。2002年臨時国会では、扇千景国土交通大臣(当時)が「2003年度から、一切新規ダムを中止」と答弁した。その2003年国会では、ダム開発が目的の特殊法人水資源開発公団が独立行政法人水資源機構に改組され、業務を「水の供給量を増大させないものに限る」と限定した法律が通過した。農水省も新規利水ダムを作らない方針だ。今後、国交省の治水ダムと砂防ダム、および農水省の治山ダム以外にはどんな新規ダム計画もありえない。この時代にあたかも生き残り策として各地に登場したのが治水専用の「穴あきダム」だ(表)。「anaakidams.doc」をダウンロード

国交省内での扱いが奇妙なダム

国交省はウェブサイトで「通常時はダムに水を貯めないため、流入水とほぼ同じ水質が維持されます」と宣伝を始め、「水がたまらないので環境にやさしい」というフレーズをまことしやかに打ち出すようになった。問題は、その根拠が一向に示されないことだ。

「環境にやさしいという科学的根拠はあるんですか?」と取材に行って驚く。担当者であると出てきた国土交通省河川局治水課からは「ちょっと分からないですね」という第一声が返ってきた。言葉を継いで「ま、通常時は水を貯めないので、ダムの上流については普通の川が流れる形になりますし、洪水吐(穴)を使って水を流すので土砂もほぼ自然に近い形で流すことができます」とウェブサイトと同じ文言が繰り出されたが、さらに「環境にはよいのではないでしょうか?どう思われます?」と逆質問を受けてしまった。さらに「利水目的がなくなれ治水目的だけになるのは自ずと普通の結論じゃないですか?」(河川局河川計画課)と奇妙な反応までが返ってくる。

勇み足で非専門性を見破られた元河川局長

奇妙なのは国土交通省職員の対応だけではない。環境影響を気にするあまり、「今が流行り」とばかりに穴あきダムを提案し、住民からひんしゅくを買い、勇み足を大臣や河川局職員からでさえ軽く受け流された「学識経験者」達も出現している。

2007214日、川辺川ダム問題を抱える球磨川水系の河川整備基本方針について審議する場で、元建設省河川局長や水資源開発公団総裁を歴任し、現在、財団法人水資源協会理事長の近藤徹委員長が、川辺川ダムを穴あきダムにしてはどうかと提案した。熊本県から遠路、ダム反対運動の住民たちが大勢傍聴に訪れていたことを意識してか、複数の委員が環境影響への懸念を述べていたからだ。ところが、河川計画課では「具体的なダムを決めるところではない」と対応せず、大臣でさえ記者会見で、「基本方針で穴あきかどうとかいうところまで整理するものではない」と受け流した。

委員長の発言を、新法の枠組みも理解せぬまま「環境への影響を小さくできる」と垂れ流した報道機関もあったが、住民団体「子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会」(中島康代表)は見逃さなかった。同審議会に送った意見書で、「穴あきダムが急浮上したのは、川辺川ダムを建設した場合の環境への影響を委員会としても懸念せざるをえなかったに他ならない」と逆手にとって批判し、さらには「穴あきダムは決して「環境にやさしいダム」ではない」と反論を行った。

意見書で同会は、水は貯めずとも、景観や生態系へは破壊され、流木や土砂で穴が詰まる可能性などを列挙。川辺川流域で04年と05年の豪雨で起きた大規模な山腹崩壊で、穴あきダムに似た構造の巨大な樅木(ルビ:もみのき)砂防ダムと朴木(ルビ:ほうのき)砂防ダムに堆積した土砂からシルトが流出し、濁水が半年以上続いた事例を元に、穴あきダムも濁水の流出源になるのではないかとの可能性を示唆した。また、従来計画は放流ゲートを操作するアーチ式コンクリートダム計画であるのに対し、穴あきダムは自然調整式の重力コンクリート式ダムであるという根本的な矛盾も指摘した。

県営ダムで続々と「穴あきダム」

もともと、穴あきダムが取沙汰されたのは、2002年に長野県で田中知事(当時)が県営浅川ダムを中止すると宣言をした頃だ。代替案として「河道内遊水地」という名で穴あきダムが検討されたが、結局は「普通のダムと変わらない」と批判を受け撤回された。その後、村井知事が就任し、穴あきダム計画が再浮上しているが、肝心の洪水想定地域で水位5ミリの減災効果しかないことが明らかになっている。

 石川県に計画された県営辰巳ダム計画では、①兼六園に水を送るために1600年代に建設された辰巳用水の取水口が沈む②データの捏造で洪水量が過大に想定されているなどの理由で根強い反対運動があった。これに対し石川県は、2004年に定めた河川整備計画で当初計画を変更し、辰巳用水が沈まない位置に穴あきダムを作ると発表した。奇妙だったのは、200511月になると、一坪地主運動に対し強制収用を前提に用地買収の交渉を持ちかけながら、その裏で穴あきダムの縮小模型を使い、「割り箸」を流木に見立てた実験を行っていた。模型実験結果を委員会に報告した職員が、「流木には根も葉もある。スクリーンを塞がないか?」という単純な質問にも回答がなされないなど検討不足は明らかだが、計画は粛々と進んでいる。これに対し、「辰巳の会」「犀川の河川整備を考える会」「ナギの会」など住民団体は、①流木対策に決め手がない。②文化財の目の前に巨大なコンクリート擁壁は許されない。③堤体上流部や副ダムでは、ダム固有の堆砂や水質問題が発生する。④上流では水位変動が激しく斜面崩壊が誘発される。⑤水位変動は中小動物の殺戮を繰り返す。⑥下流での中小洪水が減少し河川環境が激変する。⑦魚や川虫類の回遊を遮断し生態系の破壊を招く、など数々の問題を提示して中止を訴えている。

山形県も1991年から進めていた県営最上小国川ダムを、水需要が見込まれないとして多目的ダムを穴あきダム計画に変更した。200611月に最上流域委員会小委員会が「穴あきダム案」を知事に提出したが、「最上小国川の真の治水を考える会」(事務局長 草島進一)は流域委員会での議論不足、穴あきダムの環境への影響や治水上の欠陥、費用対効果の問題などを訴え続けている。

影響はゼロじゃない

冒頭に述べた取材で、治水課担当者は、穴あきダムの唯一の先例である益田川ダムでは木を切らずに湛水試験をやったため、目視しただけでも「竹などは枯れた」「影響はゼロじゃないと思いますよ」と率直に語った。「普通のダムもそれなりに環境にインパクトがあると思いますけど、それなりに環境に配慮しながらやっている。穴あきダムが100点で普通のダムが零点だという劇的な違いがあると思っているわけではない」と河川計画課担当者も言う。

それでは、環境に優しいという宣伝はまずは撤回してもらわねばならない。ゼロから100点の間で、従来型のダムと穴あきダムの環境影響とを徹底的に総括・検証した上でなければ、これ以上一歩たりともイメージ先行で「穴あきダム」を進めるべきではあるまい。

まさのあつこ

(無断転載はご遠慮ください)

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