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2007年6月 4日 (月)

神奈川の水源環境税

「労働大学出版センター『まなぶ』07年5月号から」許可を得て転載します。

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〝環境保全〟という建前と〝増税〟というホンネ

~神奈川県の水源環境税から透けるもの

ジャーナリスト まさのあつこ

「同じ河川に関わる事業であるにもかかわらず、従来の予算は見直さず、新しい財源が必要だと新税が創出されました。ほんらいは不要な公共事業を減らし、浮いたお金を環境保全に回し、それでも足りなければ、初めて新税の検討となるのが筋だと思います」

神奈川の水源環境税についてこう異論を唱えるのは、自然保護団体「相模川キャンプインシンポジウム」の氏家雅仁氏だ。「桂川・相模川流域協議会」(1998年山梨県・神奈川が設置)メンバーとして新税について説明を受けた際、さまざまな意見を投じて以来の実感だという。

「環境保全が必要といいながら、環境破壊を放置し、その一方で財源を確保するのであれば、今後も環境保全を名目に、市民は重税に組み敷かれることになる」と言うのだ。

 

 新税導入が、1)環境破壊型事業から保全型事業への転換につながるか、2)限られた財源の中で優先順序を組み替える行政改革の役割を果たすのか。この二つは新税が支持を受けるかどうかの分かれ道となりそうだ。

優先順序を組み替える行政改革となるか

 神奈川県の水源環境税は、2007年度から一人300円(均等割)と収入から平均控除額等を差し引いた額の0・025%が住民税に加算されて徴収される。たとえば、県民の平均年収543万円で計算すると、300円+1300円で1600円だ。

 元は岡崎洋知事(当時)が「確固たる財政基盤を構築したい」と神奈川県地方税制等研究会に諮問し、同研究会が2000年に「地方税財政のあり方に関する中間報告書」をまとめたことに源流をなす。その源流は税収確保だった。

 現在、水源や森林保全に関わる税を実施あるいは導入予定の自治体は24県ある。他県のほとんどが一律均等に300~1千円を課し、2~3億円の税収規模となるのに対して、神奈川県では38億円にのぼる。その意味で発案者の狙いはあたった。問題はその背景である。

 当時から実質5年半にわたり新税成立まで舞台回しをした平松博神奈川県企業庁経営局長(06年度末で退職)は、「所得の多い人には応分の負担をしてもらう思想だ」と他の県では見られない課税方法の表向きの理由を説明したが、取材が進むにつれ、本音も漏らした。

「均等割だけでやると施策をドンドン広げていこうにも無理ですよね。神奈川県の場合は所得割なので、県民が納得すれば税率を上げる」ことができるという。それでも、先述した1)と2)の効果があれば批判は受けまい。

 ところが、税の使い道は従来から行われていた森林、河川、環境の3分野に配分されている(表参照)。平松氏によれば、一般財源はそのままで、新税が増えた分だけ事業をスピードアップするのだという。赤字財政を立て直しながら、環境保全を優先事項とするのではなく、環境を名目にして得た財源で、従来どおりのハコモノ事業を維持・拡大するというのだ。人口減少が進む山間部でより合理的だとされる合併浄化槽には3%しか配分しない一方で、2割強が下水道に配分されている(表参照)ことがそれを裏付ける。

一方、新税成立過程では、水道料金の徴収業務を行う横浜、川崎、横須賀市などの地元自治体も反対した。当初は水道使用量に対して課すことが議論されたため、水道料金の値上げと同様だ、という理由だった。横浜市水道局は「環境税の目的とする事業はすでに水道料金に含まれている」という理由も挙げた。水源保全の費用として水道料金1㎥あたり6円程度を徴収しているという。また、水源確保の目的は宮ヶ瀬ダムの完成で果たされたとし、ダム湖周辺の水質改善対策事業として年約3億円、隣接する山梨県道志村の生活排水処理事業への助成に2001~2012年度で約26億円、合併処理浄化槽687基の設置などを計画している。地域によっては二重徴収のおそれもある。

市民参加はだれが担保するの?

 県が批判に耳を傾け、意見を反映させていくかどうかも課題だ。今年度から公募委員、関係団体など30人で構成する「水源環境保全・再生かながわ県民会議」を設置し、新税による施策の実施状況を点検・評価させることにしている。こうした会議がどれだけ県民の意見を反映し、信頼を得ることができるかも重要だ。市民の意見を聴く仕組みは珍しくはないが、聞き置いて終わりの事例がほとんどだ。

 たとえば、表にある事業メニューは市民参加によって変わりえるのかとの問いに、県税務課の金子浩之主幹は、「5年間は手探り状態。進めていく中でモニタリング結果をフィードバックして翌年の施策を見直す」という。この言葉がどこまで実行されていくのかが一つの試金石だ。

「県は市民参加による新税議論を進めてきたと宣伝するが、県にとって都合のいい人を入れるだけではお手盛りとなる」と早くも過去の経験から警告を発するのは、先述の氏家氏だ。水源環境税の議論を行った地方税制等研究会生活環境税制専門部会の市民メンバー就任の打診を一度は受けながら、話が立ち消えたことがある。同氏はかつて宮ヶ瀬ダムや相模大堰の反対運動で県と対立した経験をもつ。打診をしてきたのは会の運営を県から受託していた民間コンサル会社だったが、最終的に人選を行った県土地水資源対策課に理由を確かめると「そんなこと説明しなくても分かるでしょう」と妙な返答が返ってきたという。

失政のツケを地方税で払うの?

 新税の目玉である「水源の森林づくり」にも問題が散見される。県は森林整備の遅れの原因が木材価格の低迷だと大雑把に括り、この財源で買い取による公的管理や補助金のかさ上げなど公的支援を拡充する方向だ。

 一方で、無策だった国の林野行政では、森だけを見て作っていた施策を転換し、市場までをつなげて効率化やコスト削減を図り、国際商品としての木材の競争力を高めようという流れをつくろうとしている。

 県が国の林政の失敗を地方税で尻拭いし、公的資金への依存体質を維持拡大し、国は市場を意識した新しい林政を試みることになる。消費地に近い神奈川の森林行政が、緻密な過去の総括なしにチグハグな施策の元で進む。これでは税をドブに捨てることになりかねない。

 また、「かながわ森林づくり公社」の累積債務252億円(04年度末)問題は、新税を検討した県や諮問機関などの報告書、パンフレットでは触れられていない。「新税での返済を目論むなら詐欺的行為だ」(NPO法人森づくりフォーラム)等と以前から示されていた懸念は払拭されていない。

 今後も森林環境税の導入は波及してくだろうが、新税措置の「本音」はなにかを見抜く力が市民や議会になければ、説明責任を伴わない単なる増税に終わると肝に銘じておくべきだろう。神奈川においても、市民参加で、県施策の優先順序が変わり、環境破壊型のムダな公共事業が減ったと県民によって実感されなれば、環境保全は建前でしかなかったと結論付けられることになる。

(無断転載禁)

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