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2008年8月23日 (土)

淀川水系の「予防原則に基づく川づくり」の運命

環境情報雑誌グローバルネット20087月(212号)より許可を得て転載。

淀川水系の「予防原則に基づく川づくり」の運命

                                   ジャーナリスト・まさのあつこ

「ダムは、自然環境に及ぼす影響が大きいことなどのため、原則として建設しない」との提言で、淀川水系流域委員会(流域委)が一世を風靡したのは2003年1月。流域委設置から7年の今、議論の積み上げが守られるか、旧態依然の河川行政手法に崩されるかの瀬戸際にある。

●予防原則の川づくり

国土交通省近畿地方整備局(整備局)の諮問機関、流域委の提言は、ダムを否定したわけではない。「考えうるすべての実行可能な代替案の検討のもとで、ダム以外に実行可能で有効な方法がないということが客観的に認められ、かつ住民団体・地域組織などを含む住民の社会的合意が得られた場合にかぎり建設する」と条件をつけた。

「治水」「利水」で川を抑え込んだ河川行政に、1997年河川法改正以来、初めて個別の水系で「環境」とダムの関係が明示された。「環境変化の多くはある時点で突然顕在化し、その変化は不可逆的でかつ時間が経つにつれてその影響が大きくなることに多い事実に鑑み」と、「予防原則に基づく川づくり」が掲げられたのだ。

住民参加のあり方も群を抜いて秀でていた。関係住民や学識経験者の意見を聴かなければならないとする「河川法16条の2」を最大限に生かし、20012月の設置から提言発表までに165回近くの委員会や部会などを開いた。地域特性に詳しい者も学識者とし、傍聴者にも発言させるなど画期的な参加方式を実践した。

●「つぶし」と「巻き返し」

流域委「つぶし」と見られる動きが顕著になったのは200610月だ。本省河川局の布村明彦河川計画課長が近畿地方整備局長に就任直後、流域委の休止を発表した。しかし世論の反発は強く、整備局は次期流域委員を公募せざるを得なくなった。しかし、前流域委はあえてダムに批判的な第三者委員を含む準備会議や推薦委員会に委員を選ばせて行政不信を防いだのに対し、新流域委では公募はしたものの、その中から委員を選んだのは整備局だった。

誤算は、1999年から淀川工事事務所長を務め、流域委を設計した宮本博司氏本人が本省ポストを捨てて、京都府住民として舞い戻っていたことだろう。宮本氏は公募委員となり、20078月に再開された流域委において投票で委員長になった。

同月、整備局はダム計画を復活させる「淀川水系河川整備計画原案」を提示した。堤防強化で破堤による壊滅的な被害を回避・軽減することを最優先する流域委の考えとは違い、ダムによる水位低下を優先させる従来の河川行政に逆戻りした原案だった。

その後、流域委が要求したダムの必要性の根拠を示す資料を整備局が出してくるまでには数ヶ月がかかった。出てきたその資料によって、たとえば利水者の撤退により治水目的のみでは経済的に不利であるとして「当面実施しない」はずが復活した「大戸川ダム」は、想定通りの洪水が来た場合でも、下流淀川の水位を低減させる効果は最大19センチしかないことが判明した。しかも、過去の洪水パターンに当てはめると33洪水中の2洪水しか水位低減の効果がないことが分かった。

「ダムの効果が限定的で小さくても作るべきか」の問いに、大半の委員が「否」と判断を下した。そこで流域委は今年4月25日、「現段階においてダム建設の『実施』を河川整備計画に位置づけることは適切ではない」などとする中間意見を提出し、原案の見直しを求めた。24名の委員のうち1人が「限定的でない」と追加意見をつけた。

●住民参加コストは6年で21億円

整備局は追加意見以外を無視。流域委の最終意見を待つこともなく、8月末の政府予算案の概算要求に間に合わせるべく、620日に整備計画案を関係知事に提示した。見切り発車だ。これには、宮本委員長が抗議、歴代委員長の三名は連名で「河川管理者は、流域委員会の(略)意見を十分配慮・反映して河川整備計画案を作成する法的義務を負っている」と声明を出した。

傍聴を続けてきた住民団体も「諮問機関として設置された流域委を全面否定するものであり、到底許されない暴挙」(宇治・世界遺産を守る会)、「整備計画案を早急に撤回し、委員会審議を継続し最終意見書を求めることを強く要望する」(淀川水系のダムを考える大阪府民の会)と猛批判した。

ところが、冬柴鐵三大臣は同20日の会見で、「6年間で所要額21億を超える経費がかかっています。(略)最終的に破堤をしたとか、大洪水に見舞われたときに、誰が責任を負うのか」と見切り発車を擁護した。しかし、「河川に関わる公共事業に莫大なムダや収賄など不正行為があるなかで、国民は新たな川づくりに挑戦した淀川流域委の7年間/656/23億円の取り組みに要した民主主義コストを「高すぎる」と考えるだろうか」と川上聰・流域委副委員長は反論する。

●カギを握る大阪、滋賀、京都の知事たち

一方、国が行う事業に有無を言わせず関係自治体に出させる負担金こそ大きい。

大阪府財政課によれば、2008年度の一般会計予算で1100億円の削減を進める府に、現在、国が求めている負担金は1年で411億円。06年度は368億円、07年度は384億円と年々増加している。このうち国が府に求める直轄ダムの負担金は08年度だけで約15億円だ。

ところが、整備局河川部の井上智夫河川調査官は、「その額は関知していない」と言う。「ダムの費用負担は法律上で73となっており、滋賀、京都、大阪など関係府県が地方分をどう負担するかはまだ決まっておらず、今後どうするかは調整の結果」と言う。独立行政法人水資源機構が行うはずだった丹生ダムが、全利水者の撤退から国直轄の治水ダムに変更されるなどにより、予算配分や具体的設計が未だ流動的だからだ。20~30年の河川整備計画案としてダム事業を組み込みながら、実は整備局も知事も何も分からない。明細書なしで金額もはっきりしない請求書が、国から自治体には送られている状態だ。

橋下徹・大阪府知事は「負担金については不明な部分が山ほどある」「高齢者配慮がままならない中で、流域の問題にどうお金を使うかと考えると優先順序が(国と地方で)一緒になるわけがない」と会見で語り、負担金支払いに難色を示した。嘉田由紀子・滋賀県知事は「被害想定が過大。必要性について納得できたわけではない」。山田啓二・京都府知事は「(流域委の)結論が出ていないのにその前に我々が意見を出すのはヘンな話」と、TVカメラの前で口々にクレームをつけた。

1997年以降、河川局が治水政策を転換しかけていた時期もある。20006月、国交省河川局治水課が、「河川堤防設計指針」で「越水に対しても一定の安全性を有するような堤防(難破堤堤防)を整備する必要がある」と定めたのだ。ダムありきの河川行政から、越流しても破堤で破壊的な被害を出さない流域委の考え方とも整合する。しかし、その後、この指針がこつ然と取り消され、再び「ダム優先」政策へ戻った経緯がある。行きつ戻りつの転換を促す役割を今担うのは知事であり流域住民であり国民である。

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