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2009年6月14日 (日)

脱ダムが再度必要な浅川の治水

環境情報専門誌「グローバルネット」での連載から転載です。

グローバルネット2009年3月(220号)
http://www.gef.or.jp/activity/publication/globalnet/2009/200903.html 
川、開発、ひと~日本の経験、アジアの経験
第27回/脱ダムが再度必要な浅川の治水
(ジャーナリスト まさの あつこ)

「脱ダム」という言葉が日本に生まれて8年になる。田中康夫・長野県知事(当時)が、大仏ダム中止の表明をしたのは就任半月後の2000年11月。その数日後に訪れた浅川ダム予定地で、住民対話集会後にこれまた中止を表明。翌年2月の「脱ダム」宣言と共に下諏訪ダム中止も表明した。その宣言は三つの考えに貫かれていた。

一つは環境負荷。「数百億円を投じて建設されるコンクリートのダムは、看過し得ぬ負荷を地球環境へと与えてしまう。更には何れ(いずれ)造り替えねばならず、その間に夥(おびただ)しい分量の堆砂(たいさ)を、此又(これまた)数十億円を用いて処理する事態も生じる」

もう一つは財政負担。「多目的ダム建設事業は、その主体が地元自治体であろうとも、半額を国が負担する。残り50%は県費。95%に関しては起債即ち借金が認められ、その償還時にも交付税措置で66%は国が面倒を見てくれる。詰(つ)まり、ダム建設費用全体の約80%が国庫負担。然(さ)れど、国からの手厚い金銭的補助が保証されているから、との安易な理由でダム建設を選択すべきではない」

最後に、環境への負荷と県財政への負荷を比較し、「河川改修費用がダム建設より多額になろうとも、100年、200年先の我々の子孫に残す資産としての河川・湖沼の価値を重視したい。長期的な視点に立てば、日本の背骨に位置し、数多(あまた)の水源を擁する長野県に於いては出来得る限り、コンクリートのダムを造るべきではない」とした。

翌3月に「長野県治水・利水ダム等検討委員会条例」を成立させ、最終的に9基の県営ダム計画を中止、また同年、国直轄の戸草ダムの利水事業からの撤退も表明した。奇しくもそれから7年が経過した2008年6月、国交省中部地方整備局は、事実上の中止である「戸草ダムの建設見送り」を決定した。

穴あきダムとしての復活
しかし、2006年8月に就任した村井仁知事は県営浅川ダム計画を復活させた。浅川は長野市内を流れる千曲川の支流だ。千曲川が増水すると、合流地点で堤防が5メートル低い浅川に逆流して溢れる。そこで、合流地点に樋門が設置され、門を閉めて逆流を止めるようになっている。ところがそれでは浅川上流からの水が行き場を失って溢れる。そこで千曲川へポンプで排水するが、大きな洪水になると千曲川への流入を抑えるためにポンプを止めてしまうというややこしい治水策をとっている。

田中知事時代(2006年6月)には、次のような当たり前の説明が県議会で行われた。「浅川の水害には、上流域からの流量に起因する水害と、千曲川の流量に起因する下流域での水害の二つの要素が存在します」「浅川下流域の内水被害はダムを造っても防ぎ得ない」。

かつては堤防を本流と同じ高さに揃えることなどが検討されたこともある。しかし、農地がつぶれるなどの反対で浅川ダム計画が浮上した。ところが、ダム予定地から合流点までには7本の支流が流入し、治水の決定打にはなりえない。

それなのに何故か村井知事は2007年2月、「国土交通省関東地方整備局をはじめ、国土技術政策総合研究所、独立行政法人土木研究所等からのご助言をいただいた」として治水専用の「穴あきダム」として復活させた。同年5月に公聴会を開催したが、1人5分以内の制限付きで一方的に94名に意見を述べさせたのみ。県はこれに対する見解をホームページに掲示した。「多岐に渡る意見をまとめて回答した」(県河川課)というが、例えば、「100年に1回の災害を想定して多額の費用を投入すべきではない」という意見と「長年にわたり十分な議論が尽くされている」に、「ご意見としてお受けしました」と一括りに答えている。

25分の1模型実験
県は昨年7月、技術的になじみのない穴あきダムについて、実物の25分の1の模型による公開実験を(株)ニュージェックの水利模型実験場(京都)で行った。詳細設計に反映するとして実験の目的を次のように設定した。①常用洪水吐き(写真):ダムが計画通りの放流機能を持ち、流入土砂や流木が穴を塞がないか。②流木捕捉工(写真):流木を上流で捕捉できるか。③減勢工:放流水を下流河道に安全に流下させるために水の勢いを減らす工夫。④下流河道:計画の流量が安全に流下するか―――を確かめる。

上流側から100年に1度の洪水に匹敵する水を流し、ダムを満水にし、それが空になるまでの約3時間半(実際の5分の1)の経過を見る実験だ。その間、土砂や流木に見立てて、上流側からバケツで土砂や根も葉もない棒を流す。実験結果はほぼ計画通り、土砂や棒が穴に詰まることなく水が穴から自然流下したということになるのだが、治水効果は言うまでもなく、首を傾げる点は多々ある。

一つは流木捕捉工について。筆者が見ている目の前で、流木捕捉工に見立てたプラスチック棒が、流木に見立てた棒の重みに耐えかねて、「ポーン」と外れて飛んでいった。大量の流木(+流水)の圧力に耐えられる流木捕捉工なるものができるのか。またこの流木捕捉工の下からダム湖に流れ込む流木はどうなるのか。さらに、写真で分かるように流木に見立てているのは、あたかもウソの形容詞のような「根も葉もない」棒である。参加者から漏れた「根も葉もあったらどうなのか」という点はこの実験では皆目わからない。また、ダム湖周辺は地すべり地帯であり、こうした流木の重みが地面に加わるとどうなるのかもモルタルで頑丈にカバーされた実験施設ではわからない。

二つ目は堆砂について。通常は水循環を妨げないので土砂が溜まらないことが穴あきダムの一つの売りだったが、水が貯まって穴から出ていくまでには流速が落ちるので、水が引いた後には堆積土砂が残されていた。流水と共に下流へきれいに押し流されるわけではないようだ。

三つ目はこの実験では問題にされなかった魚道について。穴あきダムの売りの一つは魚の移動も妨げない、だった。ところが、実際にはダム堤体の底の穴の前に流木や土砂よけのスクリーンが、さらにその前にスリット状の「副ダム」が設置される(写真)。下流側には魚道が設置されている。今回の実験では魚類の降下や遡上効果は検証の対象になっておらず、「今後も実験の予定はない」「これまでに多自然型川作りをやってきている」(県浅川改良事務所)という。

長野県は2009年度予算に17億円をつけ、村井知事は2月県議会で「浅川の治水ダムの本体工事に着手」の説明を行った。しかし、治水効果が限定的と分かっている場所に、長期的な環境負荷を残すダム建設に税金を投じる価値がるのか、もう一度、再考すべきではないか。

(浅川ダム水利模型実験画像は3月31日まで長野県HPで見ることができる。
http://www.pref.nagano.jp/xdoboku/asakawa/mokei/douga1.html

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