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2009年6月14日 (日)

海を豊かにする「荒瀬ダム撤去」が川を豊かにする

長い間、転載をサボっていましたが、環境情報専門誌「グローバルネット」での
連載から転載させていただきます。

グローバルネット2008年11月(216号)
http://www.gef.or.jp/activity/publication/globalnet/2008/200811.html 

川、開発、ひと~日本の経験、アジアの経験/ 第24回
海を豊かにする「荒瀬ダム撤去」が川を豊かにする
(ジャーナリスト まさの あつこ)

「小学校のときには4km沖まで潮干狩りに行った。魚が澪筋にぴゅーっと泳いだりしていた。なんでも採れた。ハマグリ、マテガイ、ウノカイ、アサリ・・・今?採るものがない」と熊本県八代市在住の鮎釣り名人の塚本昭司さんは言う。

「『荒瀬ダム撤去』って聞いたときは嬉しかったですよ、俺の年と変わらんですよ。荒瀬ダムは。俺たちのときが一番変わった。まずアマモが消えて、砂がなくなって。(昔は)潮が引くとアマモが頭を出して沖に白い波頭が立つんです。風が吹いてもアマモがあるところはベタ凪ぎで、沖から泳いで入ってくるとほっとした」と語るのは同市の漁師、古川耕治さんだ。

球磨川の話を八代で聞けば、人々の口からは豊かだった海がさまざまに語られる。海の汚染源がたくさんあることはわかっている。しかし、荒瀬ダムを撤去すれば、一歩でも昔の姿に戻ることができる。そう期待に胸を膨らませている人びとは少なくない。天草諸島に囲まれた不知火(しらぬい)海の豊かさは、そこに流れ込む球磨川に左右されてきたことを、その変化から見てきたのだろう。

ダム撤去の背景
荒瀬ダム(八代市坂本町/元坂本村)は、1954年、球磨川総合開発計画に基づいて県が作った発電専用ダムだ(写真)。かつて県内需要の約16%を賄ったものが現在は1%弱。

発電の代償は地元住民には深刻だった。ダム放水による振動、貯留による悪臭。堆砂による河床の上昇で、数km上流の瀬戸石ダムとの間に挟まれた地域では洪水時の浸水もある。瀬戸石ダムのはるか上流には市房ダムがあり、中流域はさながら三段重ねのサンドイッチ状態で、具にあたる地域は、上からの放水と下からの水位上昇でダム洪水に泣かされてきた。

それでも、川沿いの狭い地域社会では、「土建業の下請けのまたその下請けや役所勤めの家族や親戚がいる中で、ダムは嫌だと声をあげるのは難しい」時代が長かったと、中流域の芦北町で生まれ育った緒方雅子さんは言う。「都会から声があがって、声をあげやすくなり」一つの形になったのが旧・坂本村議会が出した2002年のダム撤去決議だった。自民党県議団の提言や県議会の決議を経て、同年12月、2010年度末の水利権の終了以降に荒瀬ダムを撤去することになった。

WDC報告に反する要望書
この方針が変わったのは4月16日の蒲島郁夫知事の就任後だ。6月4日の定例記者会見で突如、「撤去の方針を凍結し、事業継続の方向で再検討」と発表。理由は財政再建、地球温暖化対策、「稼げる県」をマニフェストに掲げたこと、そしてダム撤去費用が当初予想を大きく上回ることになったことだという。電気事業者たる「県企業局」の説明で、当初60億円だった撤去費用が計72億円に増加。その上、橋(現在はダムと一帯なので代替)が20億円、他8億円で総計100億円となりダム維持の方が安い計算になったという。その後、県の支出額から言うと維持なら9億円、撤去なら49億円と算出された。

この転換について、企業局荒瀬ダム対策室の主幹・今村智氏は、最初は「知事は『日本大ダム会議』の方が作った『未来エネルギー研究会』のホームページに書かれていた国府高校の学生の議論を読んで、考え方のフレームワークが変わったようです」と述べた。

日本大ダム会議は、大規模ダムの成果の普及などを旨とした社団法人だ。役員は官僚OBと電力業界役員。4月15日には未来エネルギー研究会が「荒瀬ダム撤去・藤本発電所の廃止の再検討に関する要望書」を知事宛に提出している。同会の幹事で元通産省の佐山實氏に取材を試みると、日本大ダム会議のメンバーであったことは認めるが、同会議は「研究会とは関係がない」と言う。研究会は数人で1月に設立。要望書は知事の他、経済産業省、国土交通省も送ったという。「熊本県民は何を考えているんですか、世界の様子をみてください。水力発電は価値があるんです。貴重なものですよと言いたかったんです」という。活動の「当面のターゲット」は荒瀬ダムだと言う。

しかし、大型ダムは水力発電で得られるメリット以上の環境影響をもたらすと世界的に認識させたのは、「世界ダム委員会(WDC)」の報告書だ。2000年、WDC報告書は「既得権益が影響力を行使して」「客観的な評価が行われなかった結果」、ダム建設が進められてきたとの一説も含んでいる。WDCには日本大ダム会議の本家「国際大ダム会議」元議長も委員として参加している。通産官僚OBによるこの要望書こそが、時計を逆回しにした行為に思える。

県企業局という独立採算組織の思惑
一方、2003年7月に設置されダム撤去計画を検討する「荒瀬ダム対策検討委員会」(企業局が事務局)は今年3月に発表するはずだった結論を保留にしたまま休止中だ。八代市長から橋などの地元要望を置いたまま結論を出さないで欲しいと言われたのが理由だと言う。先述の今村主査は、「ダム撤去の方針は今考えれば、ムードと勢いで決まった」と個人的見解として述べ、「橋がなくなり地域が分断され、お年寄りが歩いて向こう岸に渡れないなどについて議論が足りなかった」と言う。

しかし、地方交付税などのメリットを差し置いてでも「ダム撤去」を決議したのは坂本議会だ。地域が分断と言っても、現場へ行くと橋を渡ると言ってもお年寄りには遠い距離だ。周辺3集落はのうち2つは限界集落で一つは准限界集落だ。「橋は坂本村が合併後に八代市長が言い出したと聞いた」と尋ねれば、今村主査は「八代市長は地域審議会の委員に突き上げられている」と一委員の名前を漏らす。他に何人が橋を欲しがっているのかと聞けば、人数は分からないという。

企業局に、知事の方針転換は、未来エネルギー研究会のホームページがきっかけかと確認をすると、「きっかけは私たちの報告だったと思います」と言い直した。3月に保留、4月に要望書、知事就任、5月に企業局説明、6月に方針転換の流れである。

企業庁は財政赤字に苦しむ県庁本体とは別に、黒字経営を独立採算で行っている。実際、ダム維持のためには30億円の内部留保金があると説明。県負担は9億円で済むという計算だ。しかし、なぜか撤去費には30億円の留保金は算入されず、県拠出金として49億円とはじかれる。黒字は発電収入が寄与しており、独立採算なら撤去費も企業局が出してもいいようなものだ。また「コンペで競わせればもっと安くなる」との声にも「前例がない」で考慮すらしない。また、ゲートのコンクリートだけ撤去して橋を残すなど安くできるアイデアはすべてはねつける。

「荒瀬ダム対策検討委員」の地元代表の一人で、喫茶店経営者の出水晃さんは、「金がないなら、撤去しなくてもゲートを2~3年開けて調査すればいい」と言う。出水さんは、1966年、京都の大学にいたときに川辺川ダム計画の発表を聞いて、翌年春の卒業と同時に飛んで帰ってきた。川で遊んだ日々を思い、川を守りたい思いで40年を過ごした。県民の代弁者として、こうした人々の思いをどう受け止めるか。川辺川ダム白紙撤回に続き、蒲島知事の決断が注目されるのは12月議会となりそうだ。

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この記事が出たのは昨年11月15日頃だったが、その直後、蒲島知事は、球磨川は熊本の宝という認識で川辺川ダム計画中止を決断したのとはまったく整合性のとれない結論を出した。撤去しないという。財政が大きな理由の一つだったにもかかわらず、現在、推進する合理的な理由がまったくない県営の路木(ろぎ)ダム計画を進めている。

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