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2009年7月 5日 (日)

政権与党と博士の関係(英国)

飯田哲也さんからの情報を辿り、2006年10月に出された「スターン・レビュー」http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=9176&hou_id=8046 と呼ばれている報告書「The Economy of Climate Change」を読んだ。「気候変動の経済学」と訳されている。日本での取り上げられ方を見ると、この報告書の内容に目が行っている。

確かにその中身は気候変動問題に取り組む人々にとって追い風になっている。
たとえば、抜粋すると次のようなもの
・気候変動に対する強固かつ早期の対策を行うことによる便益は、そのコストを上回る。
・気候変動の影響は均一に起こるものはなく、最貧国とその国に暮らす人々が、いち早くまたより大きな影響を受ける。そして、被害が顕在化してしまった時には、すでにそのプロセスを止めるには遅すぎるのである。しかがって、我々はかなり先を見据えて対策を実施しなければならない。
・資源コストの予測値は、CO2換算550ppmでの安定化に向かう排出削減にかかる2050年までの年間のコストの上限値が、GDPの1%であろうということを示唆している。
・低炭素経済への転換は競争力という点からは大きな挑戦ではあるが、一方で経済成長への好機でもある。

つまり、温暖化対策はコストがかかるけれど早く取り組めば、その投資をしただけの便益は返ってきますよ、ビジネスチャンスにだってなりますよ・・・などなど。よく読むと、温暖化に取り組む人々への応援歌というよりむしろ、産業界から温暖化対策へのネガティブキャンペーンに対する説得材料に読める。

しかし、ふと気づいた。迷走し続けている日本が学ぶべきところは、単にこの報告書の中身ではない。注目すべきところは、この報告書がどのように産出されたかだ。

報告書そのものと一緒に
●スターンレビューのシンポジウム
http://www.ecoplus.jp/showart.php?lang=ja&genre=8&aid=373
も読むと、このニコラス・スターン博士がレビューを始めたのは、2005年7月に英国で開催されたグレンイーグルスサミットの後に、当時財務大臣だったゴードン・ブラウンから依頼を受けたからだったことが分かる。
報告書に戻ってみると、たしかにブラウンの依頼の内容として、次の3点が挙げられている。
1)中長期的視点、行動を起こす際の時間軸の影響、政策および制度の選択に焦点を置き、低炭素世界経済へと移行する経済学
2)様々な気候変動適応策に対する多様なアプローチのポテンシャル(可能性)
3)既存の気候変動に対する目標における、英国への明確な教訓

ブラウンの指令は、2006年秋までに、首相(当時はトニー・ブレア)と財務大臣にレビューの結果を報告するようにというもの。

●つまり、政権与党が気候変動問題に立ち向かうという「決意と意図」が先にある。その上で、その決意と意図にもっとも近い知見と価値観を持つ科学者を選び、上記3点の依頼を行ったと考えるべきではないだろうか。

英国が進むべき方向性(=国民全体を説得する必要がある方向性)を裏付ける根拠として、このような報告書が欲しいと考えた。

日本とはベクトルが違う。官僚が「審議会」に専門家を並べて、諮問から答申までシナリオを書き、政治家をてのひらにコロコロ載せてうごかす(前コマで書いた国土交通政務官と河川局長次官はその一種ですね)のとは違う。

面白いのは、こうして、決意と意図を見せ、英国国内だけでなく、国際社会にインパクトを与えた「スターン・レビュー」を依頼した本人が、次の首相になったこと。

そのブラウン政権は、閣僚の経費スキャンダルで揺れてはいるが、国民が誇れる実績を何もあげていない首相が3人も解散もできないまま敵失だけを待っているどこかの政権とは全然違うと思う。

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