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2010年2月14日 (日)

槇尾川(まきおがわ)ダム論争

ここしばらく更新する余裕がなく、失礼しました。

さて、大阪府で興味深い論争が行われている。

場所は「槇尾川ダム建設事業」等に関する有識者会議。

●論者の1人は河川工学者・今本博健氏
「治水あるいは利水の効果が、自然環境に及ぼす負の影響にもまして、人間生存に不可欠と認められる場合にはじめてダムの建設が容認される」という主張を持つ。

●そして論者のもう片方は、元大阪府副知事・金盛弥氏。
この方は、大阪府土木部都市河川課長→同・土木部長→副知事→元大阪府都市開発株式会社社長という経歴を持つ。ダム推進派である。淀川水系の河川整備基本方針を決めた社会資本整備審議会河川分科会河川整備基本方針検討小委員会の委員も務めた。

この二人の間で、槇尾川ダムを巡る大バトルが続行している。

その第二回会議に
http://www.pref.osaka.jp/kasenseibi/keikaku/makio_yushiki02.html 
その論争の後を辿ることができる資料が掲載されている。
http://www.pref.osaka.jp/attach/4127/00042174/maki02yuu_yuusiryo.pdf 

●再び槇尾川上流部の治水対策について(平成22年2月5日)
P.1~今本博健氏による再々々反論と、
P.4~バトルの元となったオリジナル意見書(1月5日)

●今本博健氏への金盛弥氏の反論(1月7日)P.10~
この辺からこちらで抜粋してまとめると・・・
第一に、今本論を「机上論」だとしながら、その反論は何かと言えば、「すでに本体工事が発注済みである」こと。この段階でダム中止となれば、「ダムに協力してきてその完成を待っている地元の期待を裏切る」・・・・ということのみ。
第二に、「目指す治水目標は定かでなく」として、この点には「洪水規模を明示し一連区間においてこれを安全に処理する計画を示すべき」「100年確率を地域によって下げるべきではなく」と、槇尾川ダムによる具体的な治水効果を示しての反論ではなく今本氏の主張を否定しているだけ。

●今本博健氏の反論(1月11日)P.11~
前半はダムに関する考え方、後半は槇尾川ダムによる治水の限界について論じている。
やはり抜粋する。

「ダムの治水効果は極めて限定的」「ダムが本当に訳に立つのは河道の流下能力以上で活想定以下というきわめて限られた洪水に対してだけ」「これでは「『いかなる洪水に対しても住民の声明と財産を守る』という治水の使命が果たせません」

「ダムはいつか土砂で埋まります。これを回避するには膨大な経費が必要です。いまある3000基近くのダムも数百年後にはほとんどすべてが土砂に埋まり、無用の長物になってしまいます」

「わが国にはダムの適地が少なく、これ以上ダムをつくることができません。」「高度成長期時代に計画された効果の小さなダムを駆け込み的につくるのは歴史的な愚行」

金盛氏の「100年確率を地域によって下げるべきではなく」に対する反論として、「これがこれまでの治水方式であり、ここにこれまでの治水の欠点が集約されています」「10年確率の50ミリ対策ですら15~20年の年月と3581億円の経費が必要です。100年確率の80ミリ対策ともなれば40~50年と1兆400億円が必要」「実施不可能です」

そして避難途中での犠牲が目立つとして、「避難計画の内容の再検討」
壊滅的被害の多くは破堤によってもたらされるため、「堤防補強を最優先で実施」「鋼矢板を堤体内に設置するハイブリッド堤防な土提原則に反するとして採用されていませんが、中国の長江ではすべに標準工法」。槇尾川の場合、1000億円程度で数年程度で実現可能と、改めて代替案を示しています。

さらに槇尾川ダムの治水効果が想定される上流部で、ダムがない場合の想定被害は50ミリ降雨で18戸とされていたが、昨年12月と今年1月の2度、現地を調査してみると、被害想定箇所としてきた場所に、浸水の可能性がある住家は6棟でそのうち1棟は納屋。わずか5戸の浸水を回避するためのダムだと分かった。

中止をすれば58億円の多くはムダになるが、残事業の70億円は使わずに済む。また、危険にさらされている箇所については詳細な検討が必要ではあるが小規模で数億円の工法で実現が十分に可能だとする。

槇尾川上流では流域住民のほどんどは洪水氾濫の危険性のないところに住んでいる。この古来からの治水技術を活用しない手はない、と念を押している。

●今本氏への金盛氏からの再々反論(平成22年2月1日)P.10~
「堤防補強は当然」だが、ビールを飲むジョッキに例えれば「ガラス製のジョッキは壊れる可能性があるから錫製か銅製など頑強なものにしようという」話であり、「洪水目標は第ジョッキか中ジョッキかという容量とかスケールの選択」・・・と。

◆まさの感想
――現地へ具体的に足を運び、槇尾川ダムが想定する洪水対策は何で、治水の必要な家屋が何世帯あるのかを見に行った上で、必要な治水とは何かを真剣に提案している今本氏に対して、金盛氏の最後の再々反論は、一部、今本論の補強になってしまっている。例えば、ジョッキの喩えは、小さい洪水でも破堤する可能性はあるので、小ジョッキでいいから壊れないのがいいよねと思わせてしまう。

――また、いかなる洪水に対してもと、いわば、これまでの想定内の洪水だけでなく、想定外の洪水が来たとしても死者を出さない治水をおこなおうという今本氏の考え方に対し、

――金盛氏は、従来の治水、つまり目標を定めて想定内の洪水に対応しようとする治水計画(=実は、想定外には対応できないこと)や、永遠に完成しない非現実的な過大な治水計画があちこちで立てられていることによるあり方で見られる欠陥に対しての反論はできていない。河川法は河川整備基本方針と河川整備計画を定めて行うよう規定していると法律で反論することに精一杯。また、ダムに依存しない治水の考え方、目標を定めないことについては、端的に解釈すれば、これまでの考え方とは「違う」から「おかしい」と言っているに過ぎない。

経歴を別としても・・・と言いたいところだが、この場合、経歴を別にしては語れない。
大阪府土木部都市河川課長→同土木部長と歴任してきた人物は、いわば、このダム事業の責任者であり、この人自身が当事者であるために、「有識者会議」の一員としてそもそもふさわしかったのかということも、問わざるを得ない。

元担当者として、かつての経緯を証言する人物として活用することはできても、有識者として意見を述べるべき立場の人間ではないのではないか?

まさのあつこ

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コメント

よく書いてくれました。地元民ですけど、推進派の急先鋒の人たちはほとんど補償金目当てです。

現和泉市長辻宏康の二つの発言です。
定見は無い人物のようです。というか、選挙対策でしょう。
彼を担ぎ出したのがダム計画に深く関わった某元府議ですから、
おそらく「了解」をとったうえで反対派住民には聞こえのいいことを
言っているはずです。

2月中旬には地元の推進派住民と一緒に府庁に行き、橋下知事に
延々と二時間半陳情しています。

実際に府に対しても、ダム推進の予算要望をしています。

発言(1)「河川改修の方が環境に優しいというが、そうでもない。
住民の意見を十分に反映させなければならない」と述べ、拍手を受けた。(2月中旬の地元説明会の様子を伝える新聞記事より)

発言(2)「槙尾川ダムについて見直しも含めて検討する。
理由:大雨で被害を受けた大畑地区、坪井町から強いダム
建設の要望から取り組まれている事業ではありますが、
自然環境に対する負荷の大きいダム事業以外に地域の防
災防止効果が期待できる方法があれば再検討していきます。」

二枚舌が許せません。

抗議のあて先は
http://www.city.izumi.osaka.jp/mailform.aspx?s=shichoushitsu
です。

投稿: 地元民A | 2010年3月20日 (土) 17時14分

昔お世話になった人の名前を検索していたら、このWEBにたどり着きました。ちょっとご意見させていただきます。
今本/金盛両氏は、京大工学部土木工学課の同期で、1980年代までは、防災対策方法で意見があっていたようです。ポンプ場整備、地下河川、遊水地と公園を組み合わせた防災対策、ため池の復活など、治水面で大阪の政策は最先端でバラエティーに富んでいました。
その研究を今本氏が京大防災研究所でやり、金盛氏が実際のフィールドで活かし、二人はいいコンビに見えました。土木の有識者から見ると、今本氏が、”心変わり”したように見えます。
以前はダム研究者で、ダムの効用を強調するような発言もありましたが、最近は研究予算がとりづらいのか、環境を前面にだしているようです。それでもいいですが、最終手段として、ダムという選択肢を全否定するような最近の今本論には不満です。
予算の無駄遣い、環境への影響、地域社会の破壊など、ダムが抱える課題(短所)と、防災、地域雇用創出、副次的インフラ整備などの効果(長所)、この2つの観点を比較考量して、個別のダムの要否を検討すべきではないでしょうか。
両氏の議論は、そういう冷静な観点ではなく、意固地になったオヤジが宗教論争をしているようで、無様です。
1960~1970年代、大都市大阪は洪水が多発していました。淀川、大和川にはさまれ、中小河川も入り混じる中、急速に都市化した状況では、しょうがなかったでしょう。
1980年代、洪水は見事に治まり、治水面では安全になりました。学と官の両輪で大阪の治水対策を推進してきたお2人が、現役引退後にこのような不毛なイデオロギー論争で対決するのは、不幸です。現役世代は何をしているのでしょうか?
今本氏の過去の論文、大阪府時代の金盛氏の具体的な治水対策、調べてみると面白いですよ。今と全く逆の印象を受けるでしょう。
今日は別の目的があったので、ここで失礼します。またコメントさせていただきます。

投稿: 京大閥土木屋 | 2010年4月18日 (日) 11時02分

京大閥土木屋様、コアな名前でコアなコメントを有難うございます。まさのあつこです。今本先生は俗に言う「転びバテレン」ですね。貴重な存在です。「美味しんぼ」104巻にも登場されているそうで、近々読んでみたいものだと思っております。ダムの推進派が多数派を占める群馬県議会に呼ばれた宮本忠先生も、もっと推進派的発言をされるのかと思ったら、全然、ダムのことを発言されないご様子です。転びバテレンに仲間入りをしていただけるのかどうかは分かりませんが、本日リンクを張りましたので、合わせてご覧ください。それから、京大閥土木屋という楽しいお名前も嬉しいのですが、お仕事に差し支えが出ないのであれば、実名でのコメントはもっと歓迎です。差し支えがあるのであれば、どんな差し支えが想定できるのかなども教えていただけるとさらにさらに歓迎です。

投稿: まさの | 2010年4月24日 (土) 17時27分

掲載していただき、ありがとうございます。

勝手な話で申し訳ありませんが、身分を明かすことはできません。その理由は、学生時代に今本氏に少しお世話になったからです。学生時代の研究は、”都市河川防災”で、金盛氏の名前もよく知っていました。
今は土木に全然関係ない仕事をしており、そろそろ引退モードなので、身分を明かしても、ビジネス上の実害はありませんが、やはり匿名性は維持したいです。”卑怯”と言われるかもしれませんが、お察しください。

今本氏の主張の遷移を『転びバテレン』という言葉で表現されていますが、少し違う印象をもっています。ダムを全否定する主張に無理があると思うだけです。誤解を招く表現で申し訳ありませんでした。学者が、時代や技術の進歩に応じて主張を変えるのは、当然だと思っています。

私は、ダム”推進派”でも”反対派”でもありません。

『あきらかに無駄』と思われるダムが多いのは事実です。その治水効果も限定的です。堤防を強化する方法が、より直截的です。でも、都市河川である淀川や大和川(関東地区では、荒川や多摩川)では限界があるでしょう。
堤防の強度を高め、限界流水量を増加させると、その川にかかっている全ての橋の強度を高める必要があります。道路の橋なら”役人のテリトリー内”なので、なんとかなりますが、私鉄の橋脚の増強調整は困難でしょう。橋以外に、中小河川への逆流を防ぐ堰、ポンプ場の能力など、強化する部分はたくさんあります。その工事のほか、用地買収などで多額の費用がかかるでしょう。田舎の(失礼な言葉かもしれません)河川ならいいでしょうが、大都市の河川での、堤防強化策は、費用面で相当の障害があります。金盛氏は(当時の大阪府は)それを了解した上で、堤防強化だけに固執するのではなく、地下河川/遊水地整備(公園)/ため池復活/ポンプ場整備などに尽力されました。ダムという手段も、その一部であったはずです(あまり重要なウェイトは占めていなかった)。そういう総合的な治水対策の結果、大都市大阪の洪水はほとんどなくなったと思っています。
『不要なダムはたくさんあるかも知れないけど、ダムを全否定すると、洪水対策の設計が偏る』というのが、私の意見です。大学を離れて以来、土木は専門外となり、学術的な裏づけがない素人意見かも知れません。

金盛氏は、『ダムという選択肢は失いたくない』という意見だと思います。というのも、金盛氏には、『1960~70年代の土木専門家にしては、ダムに頼らない政策を進める人だ』という印象があるからです。その人が、ダムにあれだけ固執するのは(しかも、ちょっと辻褄があわないところもある)、ダムという選択肢を失うことへの恐怖感があるように思えます(まったくの想像です)。
今本氏の堤防論は、それはそれで有効でしょう。でも、金盛氏のフィールドであった淀川に適用するのは、予算面で無理があるでしょう。

ダム反対論者の意見は、概ね理解できます。
治水対策ではなく、『予算を地元に落とすのが、ダムの役割』になっている部分が多くあり、『ダム=胡散臭い』という意識があるのでしょう。
都会から地方への富の再分配は、”ダム”という選択肢が効果的です。”下流の防災対策”として、上流の山間の田舎に資金を流していたという見方も、概ね正しいと思います。水没する地区は除いて、それ以外の周辺地域は、道路整備などの工事受注のほか、弱小町村への補助金の増額など、大きなメリットがあります。

民主党政権になり、そういう”コンクリート的”な政策が見直されるべき時期なのかも知れません。時代の流れでしょう。
でも、”ダムはダメ”という”All or Nothing”的意見も行き過ぎかと思います。今のダム論争を聞いていると、お互いに排他的な意見をぶつけ合っていているだけのように見えます。

ダム擁護の人は、ダムが政治的に利用されてきた負の部分をしっかり反省すべきではないでしょうか?
ダム反対の人は、治水以外のメリットを目的にダムを誘致してきた人(私はあまり悪いとは思わないですが)を攻撃すべきではないでしょうか?
そういう本質論を省略し、『毎秒何トン・・・、堤防の作り方・・・』という、細かい議論に陥いり、問題の対象が曖昧になっているような気がします。
その議論に、すでに現役を引退して久しい京大の偉大な先輩2名(しかも同期で仲がよかった)が引きずり込まれているのは無様です。現役時代の業績が、輝かしかっただけに、残念です。

以上、言いたい放題書いてしまいました。
名前を明かさないので、『無責任な意見』として、掲載されなくても構いません。
あまりこの問題に深入りしたくないので、投稿も控え、議論を見守りたいです。
お騒がせしました。


投稿: 京大閥土木屋 | 2010年4月25日 (日) 11時44分

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